愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「海里!」
一歩一歩確実に海を進んでいると、背後から信じがたい声が聞こえた。
――俺の名前を呼ぶ阿古羅の声。
ゆっくりと後ろに振り向くと、本当に阿古羅がいた。
「阿古羅? なんで、お前がここに?」
どうしてバレたんだ。江の島の話なんて一言もしてないのに。
「さぁ? なんでだろうな。一つ言えることは、人から物をもらう時は、それがどんなものが調べた方がいいとってことだな」
ぬいぐるみのことか?
「これになんの問題があんだよ?」
見たところぬいぐるみは何の問題もなさそうだった。
「ほら」
そう言うと、阿古羅はチャック付きのパーカーの右ポケットから全く同じぬいぐるみを取り出して、俺に見せた。
「阿古羅も同じの持ってたのか?」
「そうじゃねえよ。それの目、触ってみ」
ぬいぐるみの左右の目を触ってみると、左目がゴツゴツしていた。何かと思って左目をぐいぐい引っ張ってみると、目ん玉じゃなくて、小型のカメラが出てきた。
「うっ、うわあ!!」
びっくりして、ついぬいぐるみを砂浜に放り投げる。
「ポイ捨てはダメだろ」
阿古羅はカメラがついてるぬいぐるみを拾うと、それをパーカーの左ポケットに入れた。
「お前、俺のこと監視してたのか?」
信じられなくて、俺は大きな声で叫んだ。
「ああ。俺は昨日、あらかじめスクバに入れてたカメラ付きのぬいぐるみと、ゲーセンでとった普通のぬいぐるみを、お前がスマフォを見てた時にすり替えたんだよ」
阿古羅はわるびれもなく言い放った。
「なっ、なんでそこまで」
後ずさりながら、怯えた声を出して言う。
ありえない。度が過ぎている。
死を怖がってて、約束をしたとしてもいくらなんでも限度がある。
「何で? 我慢ならなかったからだよ! お前があんなクソ親に操られてるのも、その異常な環境をお前が受け入れようとしてるのにも! だからお前に反抗しろって、自分の命を大切にしろって言ったし、監視もした! 口約束だけだと不安だったから! あんなクソ親のせいでお前が死ぬのなんて、絶対に嫌だったから!」
阿古羅は大声で荒い息を吐きながら一気に喋った。その声は、昨日の放課後にきいた大声よりも何十倍も大きくて、威圧感のある声だった。
「阿古羅……」
俺は阿古羅の剣幕に震えて、ただただ名前を呼ぶことしかできなかった。