愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「えっ!」
テーブルの中央に水槽があって、その中をタツノオトシゴが泳いでいた。
「海里、どうした?」
俺の声に気づいた零次が飲み物を持ちながらそばに来る。
「零次、テーブルに魚いる!!」
「そりゃあ水族館だからな」
零次は当然のように言った。
「でもここ、BARじゃん!!」
「ああ、確かに。クク、クククッ。あーおかしっ! 海里って結構子供っぽいんだな」
零次は急に喉を鳴らして笑った。
「こっ、子供っぽい?」
「ああ。テーブルに魚がいるだけで大騒ぎしたり、魚が近づいてくるだけで喜んだりはしゃいだりしてさ。覚めてるのかと思ったら、意外と子供みてぇなとこあるよな」
口の前に手をやって楽しそうに笑いながら、零次は言う。
「……馬鹿にしてんのか?」
とても馬鹿にされている感じがして、俺は思わず眉間に皺をよせた。
「いや? 安心してる。お前にそういう何かを見て笑ったり、驚いたりする素直で子供っぽいところがあってよかった。そういうところが、虐待のせいでなくなったりしなくてよかった」
零次はとても嬉しそうに口角を上げて笑った。
余りにまっすぐすぎるその答えに驚いて、俺は言葉を失う。
「子供らしく、楽しく生きようぜ海里。俺らまだ高一なんだしさ! なにもかも諦めたりとかしないでさ!」
零次は俺の火傷してない方の肩に腕をのっけた。
……そうだ、俺はまだ高校一年生だ。
人生を諦めるにはまだまだ早い。早すぎるんだ。
「うんっ!」
俺は思わず零れそうになる涙を必死で堪えて、零次の言葉に頷いた。
「これは平気なんだな?」
俺の肩にのっけている腕を見ながら、零次は言う。
「うん。大丈夫、かも」
「そっか。頭までもうちょいだな」
笑いながら、零次は言う。
「ハッ。どんだけ頭撫でたいんだよ」
俺は呆れながら言った。
「えーだって、俺はいつも母親に頭撫でられて安心してたから、海里にもそういうの味わってほしいと思ってさ」
「ありがとう」
俺は笑って、礼を言った。
その日から、俺は零次を信じることにした。
スパイじゃなくて、本当に死を怖がってて、俺の環境に我慢ならなかったから監視をしたんだと思うことにした。
まだ会ってから日も浅い俺のことで、なんでそんなに怒ってくれるのかとか、カメラをどうやって手に入れたのかとか色々疑問ではあるけれど、とにかくそう思うことにした。零次が必死で俺を笑わせようとしてくれたのと、俺の人生を変えてやるって言ってくれたのに、とても心を動かされたから。