愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
 
「あ、海里、これ」
 二人で咲坂達を待っていると、そう言って零次は突然、被っていた紫色のキャップを俺の頭に被せた。

「何?」
「何って、傷かくしだよ。お前、奈緒ちゃん達に虐待のこと隠したいんだろ。それなら今日は一日中かぶっとけよ。お前の母親が送ってくれたやつの中に帽子なかったし、これ、お前にやるよ」

「あ、ありがとう」

「おう。渡すのが遅くなって悪いな。本当は同居を始めた日に渡した方が良かったよな」
「……いいよ。紫だから、渡しづらかったんだろ?」

「あ、バレてる? 俺のことよくわかってんじゃん」
 零次はそう言って、嬉しそうに口元を緩ませて、俺の火傷していない方の肩に腕をのっけた。
「一か月半も一緒に暮らしてたら大抵のことはわかる。……お前、わかりやすいし」
「お前は何でそこで、そういう意地の悪い言い方すんだよ! せめて『仲良くなったからそれくらい簡単にわかる』とか言ってみろよ!」
 不服そうに口を尖らせて、零次は俺の両頬をつねる。

「れっ、零次やめろ」

 ――ん?

 俺は数メートル先にいる咲坂と茅野が足音を立てないようにして零次に近づいているのを見て、眉間に皺を寄せた。

 あいつら、何してんだ?

「零次、やめなさい」
 茅野が突然、背後から零次の肩を叩いた。
「いたっ!? 美和ちゃん? 今結構力入れただろ? 地味に痛いんだけど!」
 零次は俺の頬から手を離して、痛そうに肩を触る。
「手加減しただけ感謝しなさい」
「いやなんで? 俺、少しふざけてただけじゃん!」
「アンタが言う少しは、全然少しじゃないのよ」
「キャハハ!」
「アハハハ!!」
 俺と咲坂は茅野と零次の言い合いを見て、声を上げて笑った。

「海里くん、今日はよろしくね?」
 頬をほんのりピンク色に染めて、咲坂は笑う。
「うん。よっ、よろしく、咲坂」
 小さな声で、俺は頷いた。
「奈緒でいいよ? せっかく遊園地で遊ぶんだし、名前で呼び合おうよ。その方が、きっと楽しいよ」
「わっ、わかった」
 俺は髪をいじりながら頷いた。
「海里、私も名前呼びでいいわよ。美和でいいわ」
 茅野が俺と奈緒のそばに来ていう。
「うん」
 俺は笑って頷いた。
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