愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
そう言うと、父さんはタオルを口に咥え、俺の右腕を勢いよく掴んだ。
『放せっ!!』
この時は虐待が悪化してからまだ一ヶ月もしない頃だったから、俺は父さんに抵抗をして、腕を一心不乱に振り回していた。
父さんが口に咥えてたタオルを、俺の右腕に落とす。
『冷たっ!?』
タオルは氷の中にでもあったのか、キンキンに冷えていた。
慌てて、自由な左腕でタオルをとろうとしたら、その前に左腕を勢いよく掴まれた。
『いっ!!!』
両手で持っていた腕を片手でひとまとめに持たれ、冷たいタオルで手首を縛られる。
『海里、お前の制服のネクタイ、どこにある』
ネクタイ?
俺は手足を拘束された上で、さらに目隠しでもされるのか?
『言うわけねえだろ、バカ』
肩を押され、まるで坂を下るかのように、椅子ごとものすごい勢いで床に倒れる。
背もたれに頭が激突して、椅子が倒れた振動で、身体中に鈍い痛みが走る。
『もう一回聞くぞ、お前のネクタイ、どこにある』
『……は、ハンガーに、かかってる。机のそばの』
『ああ、これか』
勉強机の横に置かれたハンガーラックの端にかかっているハンガーからネクタイを取って、父さんは言う。
――何も見えない。
ネクタイを頭の後ろで結ばれ、目隠しをされた。
『父さん、怖い』
視界が真っ暗で、自分がどこにいるかすらろくにわからなくなりそうだ。
心臓の鼓動がますます早くなり、身体のあらゆるところから冷や汗が噴き出す。
――ゴロゴロ!
『ヒッ!?』
やたらでかい物音が俺の聴覚を刺激する。
視覚が妨げられているから、音にやけに敏感になってしまった。
『海里、もしかして、雷が怖いのか?』
雷?
……そういえば今、梅雨だったんだっけ。
起きて早々に手足を拘束されたから、そんなことを考えてる余裕、全然なかった。
『うわっ!?』
雷鳴が続けざまに二回、街に轟いた。
俺は別に元々雷が怖かったわけじゃない。それでも、こんな状態で雷の音を聞いたら、いやでも身構えてしまう。
だってこれじゃあ、雷がどこに落ちてるかすらも、わからないじゃないか。