愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
美和の言葉に零次はガーンと効果音がつくくらいの勢いで項垂れる。動作が大袈裟だ。
「零次、俺自分の分と奈緒の分払うから、残り払って」
確かまだ母さんの金が残ってたハズだ。
「おっマジ? やっぱ持つべきものは親友だな!」
零次は火傷してない方の俺の肩に腕をのっけた。
「親友? 俺と零次が?」
「おう。嫌か?」
「別に」
むしろ、どっちかと言うと嬉しいかもしれない。
零次は笑いながら帽子の中に手を入れて、俺の頭を包帯ごしに撫でた。俺はそれを拒否しなかった。
「え? 嫌じゃねぇの?」
「……零次が腕振りあげなかったから、そんな怖いと思わなかったのかも」
零次はきっと俺の肩に乗っけた方の腕だったから、上げる必要がなかっただけだ。
振り上げなかったのは、たまたまだ。理由なんてない。
それでも、その瞬間は確かに、俺が頭を撫でられるのを拒否しなかった瞬間だった。
「いいじゃん! そんじゃあこれからは手を振り上げさえしなければ、お前のこと幾らでも撫でられるんだな!」
零次はとても嬉しそうに口元を綻ばせた。
「……たぶん、振りあげられても平気だよ。確証はないけど、少なくとも、もう怖いとは思わないと思う。俺、零次のこと信じるって決めたから」
「え? 今のもう一回言って!!」
零次がとてもはしゃいだ様子で言う。
「嫌だ。調子乗んな」
顔を顰める。
絶対聞こえてただろ。
「ちぇっ」
零次が俺を見て、不服そうに口を尖らせる。ガキかよ。
「ちょっと、いつまで二人で話してんのよ。このバカップル」
零次の後ろにいる美和が、とんでもないことを言ってのけた。
「「は?」」
俺と零次は思わず同時に後ろに振り向いた。
「えっと美和ちゃん、なに言ってんの?」
「だから仲が良過ぎて傍から見たらカップルにしか見えないって言ってんのよ」
カップル? 俺と零次が?
「あーごめん海里、多分二人が誤解してんの俺のせいだ」
「え?」
「美和ちゃんは俺がよく海里の頭や背中を触ったりするからそう思ったんだろ?」
「ええ、そうだけど?」
「それならやっぱ俺のせいだわ」
零次は申し訳なさそうに俺に手を合わせた。