愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「俺、十二歳の時に母親が死んでるから、甘えたがりみたいなとこがあって、スキンシップが激しいらしいんだよ。セフレとかにもよく触り過ぎって言われてんだ。つっても、昔は毎日のように頭撫でて欲しいとか言ってたからこれでもだいぶマシにはなったんだけど」

 零次が俺の頭を撫でようとするのは、母親に頭を撫でられて安心してたからってだけじゃない。
 本当は自分の頭を撫でて欲しいと思ってたけど、その想いの裏返しで頭を撫でたこともあったんだ。

「ごめん。あたし、零次の過去に土足で突っ込んじゃったね」
「いやいや、大丈夫! 気にすんなよ! 美和ちゃん、タピオカ買いに行くんだろ? 早く行こうぜ?」
 零次が美和の腕を掴んだ。
「うっ、うん」
 美和は震えていて、額から汗が滲んでいた。内容が重いだけに、動揺している様子が見て取れる。
「行くぞ、海里、奈緒ちゃん!」
 零次は俺と奈緒を見てから、美和の腕を引いてフードコートの右端にあるタピオカ屋へ向かった。

「海里くんは零次くんの親のこと知ってたの?」
 零次と美和を追っていると、隣にいる奈緒が声をかけてきた。
「うん。つい最近知った」
「そっか。まああたしたちまだ遊ぶの二回目だし、そりゃ知らないことだってあるよね。内容が余りに予想外でちょっとびっくりしたけど」
「俺も話聞いた時は驚いた。零次って基本いつも明るくて、毎日が楽しくてしょうがないって感じの奴だから、まさかそんな事情を抱えてるなんて思いもしなかった。まあ俺は零次のその明るさに救われたんだけど」
 零次がああいう性格だったから、俺は死にたくないと、零次との日々を過ごしていきたいと思えるようになった。
「そうなんだと思ったよ」

「え?」
 予想外の返答に驚いて、奈緒の方を見る。

「海里くん、よく笑うようになったなあと思ってたの。やっぱり零次くんのおかげなんだね?」
「まあそうじゃないって言ったら嘘にはなるかな」
 こんなの本人には絶対教えないけど。

 タピオカは人気の商品らしく、俺達が並ぼうとする頃には、列には十人以上の人が並んでいた。
 これは結構時間がかかりそうだ。
 零次はタピオカのメニューのチラシを持って、列の最後尾に立っている店員に声をかけた。
「何分くらい待ちますか?」
「そうですね。だいたい十五分くらいかと思います」
「美和ちゃん、平気?」
「えっ、ええ。大丈夫よ」
 美和が震えた声で返事をする。
 美和の額からはいまだに汗が流れていた。
 どうやらまだ動揺しているみたいだ。

「ありがとうごさいます! メニューをご覧になってお待ちください!」

 店員が、美和にメニューのチラシを手渡す。美和はそれをしっかりと受け取った。
 店員は俺たちを見て微笑んでから、列を離れて、タピオカの宣伝をしに行った。
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