愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「んっ」
　日の光が眩しくて、俺は目を覚ました。
　俺は、白いベッドの上に病衣を着て寝っ転がっていた。

「いった！！」
　身体を起き上がらせようとすると、後頭部がとんでもない痛みを訴えた。
　壁に押し付けられたからか。自殺する前に受けた虐待の傷もまだ治ってないし、そりゃ痛くて当然だよな。

　左手に点滴がついている。

　……ここは病院なのか？

　俺は痛みを訴える頭を左手でおさえながら、辺りを見回した。

　俺はどうやら、二人部屋の病室のドアに近い方にいるらしい。

　部屋はカーテンで二つに仕切られていて、ベッドの右横には食事に使うサイドテーブルや食品を入れる冷蔵庫が置いてあった。左側には小さな整理タンスとテレビと丸椅子が置かれている。 　
　……ここが、病院か。初めてこれたことに対する感動はとくになくて、それよりも安心感の方がよっぽど強かった。

「海里！　よかった！　目が覚めたのね！！」
　ドアを開けて、母さんが病室に入ってくる。
　母さんは紫色の花束を持っていた。
　母さんが涙を流しながら、俺を勢いよく抱きしめる。
「心配かけてごめん。あと、お金ないのに入院させてくれてありがとう」
「いいのよ。それくらいどうってことないわ」
　母さんは笑って俺の背中を撫でた。
「……母さん、俺を助けてくれたのは零次なの？」
「ええ、そうよ。ただ、私は零次くんに会ってないの」
「え？　どういうこと？」
「私は昨日の夜、『海里が虐待を受けて傷だらけになってたので、松坂病院に連れてきました』って零次くんに電話で言われただけなの。それで病院に行ったら、その通りになってたの」
　母さんの言葉を聞いて、俺は絶句する。
　なんだそれ。まるで、わざと俺に会わなかったみたいだ。

「……零次、俺のこと嫌いになったのかな。だから会ってくれなかったのかな」
「それは違うわ！　零次くんは、あの人を警察に通報しに行ってくれたの」
　母さんがワンピースのポケットからスマフォを取り出して、それを十秒ほど操作してから、俺に手渡す。

「え？」

　スマフォの画面に映っているニュースの記事には、俺の父さんが児童虐待の容疑で逮捕されたということが書かれていた。
　零次が俺を監視していた時の動画を警察に提出したから、逮捕されたのか？

　……俺は、虐待から解放されたのか？
　俺の世界は、地獄じゃなくなったのか？

　俺は戸惑いながら、母さんにスマフォを返した。

「海里、これ、零次くんからよ」
　母さんが手に持ってる花束を俺に手渡す。

　花束は紫色のラベンダーの花でできていた。
　花束についているメッセージカードには、『早く元気になれよ。楽しかった。今までありがとう』と書かれていた。
　メッセージカードには、送り主も宛名も書かれていなかった。
それでも花束が紫なだけで、零次が俺に宛てたものだと、嫌というほどわかってしまった。