ありがとう
そう、あれは中学1年の冬だった。

父さんのDVのせいで、母さんが逃げたあの日の冬だ。

雪が降りそうだなあ、なんて思っていた矢先、1本のメールが俺の元に届いた。

『母さんが、消えた』

この一文では、俺は当時「死」を意味するメールだと思いもしなかった。

勿論俺は、DVのことは知っていた。俺が家に帰る度に、「こんなお母さんでごめんね」と腫れた目を拭いながら言うその姿で俺は全てを悟っていた。


それを知った日から、家に帰るのが億劫になり、学校が閉まるギリギリの時間まで教室に残るようになっていった。

「母さん、嘘だろ……?」

いつもなら、涙なんてでないのに、今日はすごく涙が出た日だった。

午後6時くらいだろうか。

「大丈夫?寒いよ?」

……誰だろう。分からないけどすごく暖かい声だった。

「……っ。」

どれくらい泣いていたのか分からない。声が枯れ果てて、全く出ない。

「これ、あったかい飲み物だよ、置いとくね!」

名前の札を見ると、『白石(陽)』と書いてある。

その子は一礼するとその場を走り去っていった。
誰だったのだろう。

……これが俺の一目惚れであり、初恋だった。
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