夢とりかえばやブックカフェ
朝から昼までのカフェ
『いらっしゃいませー!』
朝7時からopen札をかける
わたし達夫婦のブックカフェは
朝7時から午後3時までが
わたしが担当。
夕方5時から夜11時までを
夫が切り盛りする。
今入ってきた
2人の女性客様に挨拶した
女学生ちゃんに
昼の11時から夕方5時まで、
男学生くんには
入れ替わり
夕方4時から夜10時までバイトを
お願いしている。
『冷し茶粥と奈良漬けセット。
と、素麺と柿の葉寿司セット。
珈琲は後ですね。はい。』
軽食オーダーを取って
女学生バイトちゃんが
『オーナー!冷茶セット1!
麺セット1です。あと、、』
小声で
わたしに耳打ちしてくれるが、
いつもの事なので
大体予想は
つく。
わたしは微笑んで、
バイトちゃんに頷くと
近くの老舗さんに卸してもらう
柿の葉寿司を
出して、
茶粥と素麺をセットする。
ブックカフェとはいえ、
本を読みながら
休憩する
常連さんや、
観光の人がマップを片手に
入店してくる。
『えー、あの人がマスターの
奥さん?ふつーじゃない!』
混じって、
夜の常連客か、
夫目当ての女性客が、
何の偵察だか
わたしを
やっか見に、朝や昼に
来るのも
慣れたもの。
『オーナー!葛きり、 しきしき、
入りました。セットしますね!』
バイトちゃんが
観光客のオーダースイーツを
準備する。
うちの茶粥は、ほうじ茶粥。
冬なら『おかき』を
月浮かべる。
水は
店の中庭にある自慢の井戸水。
茶粥奈良漬けセットと
素麺柿の葉寿司セットを
カウンターに出すと、
黒蜜黄粉葛きりと
しきしき茶ジャム餡をセットした
バイトちゃんが、
ブックテーブルに座りながら
わたしに視線を刺してくる
女性客2人に
手早く運ぶ。
わたしには、
スイーツ2つを観光客に
運ぶようにとの、
心配りができる彼女に
口が緩んだ。
最近彼女は、
夕方から入る男学生バイトくんと
付き合いはじめたらしい。
と、
夫に教えてもらった
からかもしれない。
『しきしき』は
和クレープにえんどう餅を
はさんだ
大和の伝統おやつ。
わたしも、夫も
子供の頃から、
親に作ってもらって
食べた
懐かしい味。
えんどう餅の甘いのや、
正月なら餅、葱や鰹節のお惣菜で
食べるのも良し。
カフェでは茶ジャム餡を挟む。
『ご馳走さま。珈琲、美味しい
からゆっくり出来るよ。本も
いろいろ読めたし、もう一仕事
してくるかなぁ。それにしても、
オーナーも大変だね。じゃあ。』
蔵書を読みながら
ゆっくりしていた常連客。
彼がそう
言いながら、チラリと
殺気まがいの視線をする
女性客2人を
見て苦笑するので、
わたしも、少し困った顔をして
見せて
お勘定をする。
夫の友人で、大学の研究室に
勤務する彼は
夫の時間も
わたしの時間でも顔を出す
律儀な一面を持つ。
『ありがとーございましたー!』
バイトちゃんの小気味のいい
挨拶に送られて彼が出て行くと、
今度は
初老の紳士が
アンティークレジスタ前に
立つ。
『朝から晩まで、なかなかの
入りらしいやないか。
坊とお嬢が切り盛りして、
お父ちゃんらも、安心やな。』
ニコヤかに
それでいて落ち着いた
雰囲気のまま、
わたしの定位置、
渋艶タイルのカウンター席で
さっきまで
珈琲を堪能していたご隠居は
わたしも、夫も頭が上がらない
子どもの頃からの
商店街の会長。
『しかし、一時はどうなるかと
肝を冷やしておったのだよ。』
ご隠居は、
細く垂れ下がる目を
わたしに向けて、
珈琲のお代をトレーに置くと
『ご馳走さん。またな。』と
颯爽と出て行かれ
『ありがとーございましたー!』
バイトちゃんの声を
背負いながら
商店街の顔馴染みに声を
かけて行く。
カクシャクそのもの。
時間は午後3時。
『時間ですねー。
オーナーお疲れさまでーす。』
頼もしい限り
バイトちゃんの言葉に礼しながら
店の奥、
坪庭を越えて設えた
2階住居への螺旋階段を
わたしは
上がる。
『しかし、一時はどうなるかと
肝を冷やしておったのだよ。』
さっきのご隠居声が
リフレインする。
まさかとは思いつつ
勘のいい商店街会長だから
気が抜けない。
『PPP、PPP』
アラームの音がして
わたしは、
寝室のドアを開ける。
ダブルベッドで
まだ眠る夫の姿が
目に入って、
とりあえずシャワーを
浴びる用意にと
静かに
着替えを
クローゼットから出した。
わたしと夫は
隣同士の幼馴染み。
夫は大学で
古典文学の助教授として働く
眼鏡イケメンだった。
子どもの頃からモテモテの彼。
隣住まいの幼馴染みという
アドバンテージがなければ
わたしなど
至って普通の
甘味処なんちゃって
看板娘なんかに
夫が
恋してくれるなんて
都合の良い奇跡は起きない
事ぐらい
充分心得えている。
ダブルベッドでまだ眠る
夫の頬に
そっと手を添えて
今日も おはようは伝えられず
心の中で思うのは、
最愛の貴方へ今日も囁く
わたしの
『おやすみなさい。』
朝7時からopen札をかける
わたし達夫婦のブックカフェは
朝7時から午後3時までが
わたしが担当。
夕方5時から夜11時までを
夫が切り盛りする。
今入ってきた
2人の女性客様に挨拶した
女学生ちゃんに
昼の11時から夕方5時まで、
男学生くんには
入れ替わり
夕方4時から夜10時までバイトを
お願いしている。
『冷し茶粥と奈良漬けセット。
と、素麺と柿の葉寿司セット。
珈琲は後ですね。はい。』
軽食オーダーを取って
女学生バイトちゃんが
『オーナー!冷茶セット1!
麺セット1です。あと、、』
小声で
わたしに耳打ちしてくれるが、
いつもの事なので
大体予想は
つく。
わたしは微笑んで、
バイトちゃんに頷くと
近くの老舗さんに卸してもらう
柿の葉寿司を
出して、
茶粥と素麺をセットする。
ブックカフェとはいえ、
本を読みながら
休憩する
常連さんや、
観光の人がマップを片手に
入店してくる。
『えー、あの人がマスターの
奥さん?ふつーじゃない!』
混じって、
夜の常連客か、
夫目当ての女性客が、
何の偵察だか
わたしを
やっか見に、朝や昼に
来るのも
慣れたもの。
『オーナー!葛きり、 しきしき、
入りました。セットしますね!』
バイトちゃんが
観光客のオーダースイーツを
準備する。
うちの茶粥は、ほうじ茶粥。
冬なら『おかき』を
月浮かべる。
水は
店の中庭にある自慢の井戸水。
茶粥奈良漬けセットと
素麺柿の葉寿司セットを
カウンターに出すと、
黒蜜黄粉葛きりと
しきしき茶ジャム餡をセットした
バイトちゃんが、
ブックテーブルに座りながら
わたしに視線を刺してくる
女性客2人に
手早く運ぶ。
わたしには、
スイーツ2つを観光客に
運ぶようにとの、
心配りができる彼女に
口が緩んだ。
最近彼女は、
夕方から入る男学生バイトくんと
付き合いはじめたらしい。
と、
夫に教えてもらった
からかもしれない。
『しきしき』は
和クレープにえんどう餅を
はさんだ
大和の伝統おやつ。
わたしも、夫も
子供の頃から、
親に作ってもらって
食べた
懐かしい味。
えんどう餅の甘いのや、
正月なら餅、葱や鰹節のお惣菜で
食べるのも良し。
カフェでは茶ジャム餡を挟む。
『ご馳走さま。珈琲、美味しい
からゆっくり出来るよ。本も
いろいろ読めたし、もう一仕事
してくるかなぁ。それにしても、
オーナーも大変だね。じゃあ。』
蔵書を読みながら
ゆっくりしていた常連客。
彼がそう
言いながら、チラリと
殺気まがいの視線をする
女性客2人を
見て苦笑するので、
わたしも、少し困った顔をして
見せて
お勘定をする。
夫の友人で、大学の研究室に
勤務する彼は
夫の時間も
わたしの時間でも顔を出す
律儀な一面を持つ。
『ありがとーございましたー!』
バイトちゃんの小気味のいい
挨拶に送られて彼が出て行くと、
今度は
初老の紳士が
アンティークレジスタ前に
立つ。
『朝から晩まで、なかなかの
入りらしいやないか。
坊とお嬢が切り盛りして、
お父ちゃんらも、安心やな。』
ニコヤかに
それでいて落ち着いた
雰囲気のまま、
わたしの定位置、
渋艶タイルのカウンター席で
さっきまで
珈琲を堪能していたご隠居は
わたしも、夫も頭が上がらない
子どもの頃からの
商店街の会長。
『しかし、一時はどうなるかと
肝を冷やしておったのだよ。』
ご隠居は、
細く垂れ下がる目を
わたしに向けて、
珈琲のお代をトレーに置くと
『ご馳走さん。またな。』と
颯爽と出て行かれ
『ありがとーございましたー!』
バイトちゃんの声を
背負いながら
商店街の顔馴染みに声を
かけて行く。
カクシャクそのもの。
時間は午後3時。
『時間ですねー。
オーナーお疲れさまでーす。』
頼もしい限り
バイトちゃんの言葉に礼しながら
店の奥、
坪庭を越えて設えた
2階住居への螺旋階段を
わたしは
上がる。
『しかし、一時はどうなるかと
肝を冷やしておったのだよ。』
さっきのご隠居声が
リフレインする。
まさかとは思いつつ
勘のいい商店街会長だから
気が抜けない。
『PPP、PPP』
アラームの音がして
わたしは、
寝室のドアを開ける。
ダブルベッドで
まだ眠る夫の姿が
目に入って、
とりあえずシャワーを
浴びる用意にと
静かに
着替えを
クローゼットから出した。
わたしと夫は
隣同士の幼馴染み。
夫は大学で
古典文学の助教授として働く
眼鏡イケメンだった。
子どもの頃からモテモテの彼。
隣住まいの幼馴染みという
アドバンテージがなければ
わたしなど
至って普通の
甘味処なんちゃって
看板娘なんかに
夫が
恋してくれるなんて
都合の良い奇跡は起きない
事ぐらい
充分心得えている。
ダブルベッドでまだ眠る
夫の頬に
そっと手を添えて
今日も おはようは伝えられず
心の中で思うのは、
最愛の貴方へ今日も囁く
わたしの
『おやすみなさい。』