わたしが最愛の薔薇になるまで
 盛り場とは繁華街のことである。見世物や芸事が盛んなところで、歓楽の色が濃い場所でもある。

「人違いではありませんか。蕾と咲は、そういった場所に出入りする子ではございません」
「こちらもそう信じておりますが、寮生のなかには、学舎を抜け出して博打や遊興にふける者がおります。一高生として相応しくない行動を取った場合は、退学措置もありえますから、一度おうちの方から注意されてみてください」
「分かりました……」

 私は、ふらふらとした足どりで学長室を出た。

 蕾と咲が盛り場に出入りしているなんて信じられなかった。
 しかし、顔の整った双子なんて、そうそういるものでもない。
 
 門を出て、大通りまで歩いて行く。辻馬車でも捕まえようと道を仰げば、通り向かいに見慣れた顔があった。学校帰りの蕾と咲だ。

 気づいてもらおうと片手を上げかけた私は、次の瞬間には絶句した。

(え……)

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