わたしが最愛の薔薇になるまで
 昼間の光景がよみがえって、私は咲から距離を取るように後ろに下がった。
 骨張った長い指から、するりと髪先が逃げ出す。それは、幼子が遊びで垂らした糸で釣り上げられた細い魚が、手から跳ね出すときに似ていた。

「学舎からの帰りに、二人が女学生連れで裏路地へ入っていくのを見たわ。異性との不純な交遊は校則で禁じられているのに、なぜあんなことを?」

 詰問すると、咲はくるりと振り返り、溜め息をついた蕾と視線を合わせた。

「バレちゃった」
「お前が目立つからだ」
「目立っていたのは蕾の方だよ?」
「文句はベタベタとくっついてきたあの女に言え」

 自省の色が見えられない言葉の応酬に、私の体温は急激に冷えていった。

「二人とも、どうしてそんな風になってしまったの」

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