わたしが最愛の薔薇になるまで
 おどろく私の両肩を、蕾と咲それぞれの手が押さえつける。
 陰影の濃い顔だちには、薄笑いまで浮かべている。

「謝るよ。秘密にしていてごめんなさい、薔子さま。女学生にはお願い事があって近づいたんだ。彼女達のお父さまが輸入に明るいって聞いたから」
「舶来品を手に入れたかった。大量に。そうでなければ、女学生に声を掛けるはずもない」
「欲しい物があるなら、いつものように私に言えばよろしかったでしょうに。何を手に入れたかったの?」

「「薔薇の種が」」

 その理由は、仏頂面の蕾が教えてくれた。

 大量に欲していたのは、閑散としている垣之内邸の庭いっぱいに、薔薇を咲かせるため。私に頼まなかったのは、秘密にしておいて私を驚かせるためだった。
 店で売られいている挿し木の薔薇では駄目らしい。

 ――なぜならば、葉室が薔薇の種子を国内に運び入れているから。

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