わたしが最愛の薔薇になるまで
◆◆◆◆◆


 私が再婚について考える契機がもたらされたのは、前月の真昼のことだった。

「――お見合い、ですか?」

 突飛な話だったので、葡萄酒色の反物を手にしたまま固まってしまった。
 いつも垣之内邸に来る外商部の男は、巻かれた布地を応接間のテーブルに並べながら言う。

「ええ。わたくしどもの顧客に、さるお大尽の三男で、仕事一辺倒な生活をなさっている実業家がおられます。一財産築いたところで引退をお考えで、余生をともに過ごす女性を探しておいでなのです。垣之内様のことをお話しましたら、大層気に入られたご様子で、ぜひ逢いたいと」
「そう……」

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