【SR】hide and seek
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「月子、大丈夫?」
「ーーきゃぁ!」
白昼夢を見るように心ここにあらずで気分を悪そうにしている月子を見やり、麻美は思わず声をかけた。
その呼びかけに、か細い肩を揺らし小さく声を上げる月子。
手のひらに嫌な汗が、ジワリと浮かんでいる。
心配そうにこちらを伺う麻美に、なんとか重たく感じる頭を下げた。
「さっきから、具合悪そうにしてたけど…」
また、だ……
そう、
月子は、最近頻繁に蘇る過去の記憶に悩まされていた。
夜眠る時に見る夢だけではなく、気付けば、こうして起きている時でも過去の記憶にとらわれてしまうらしい。
姉の陽子と必死で逃げた、学校の暗い廊下。
必要以上に追いかけてくる、変質者の足音。
そして、息づかい。
まざまざとフラッシュバックし、堅く閉ざされた月子の記憶の扉を、何度もこじ開けようとするのだった。
「うん…大丈夫……」
そう麻美に言ってはみたものの、月子本人でもその声が震えているのがわかる程弱々しかった。
「仕方ないよ、月子。
昼間、あんな事があった後じゃ。」
月子の隣。
麻美とテーブルを挟み、向かいあって座っている武島 敦は月子の彼氏である。
震える肩を抱き寄せ、ソッとその黒髪に唇を添える。
荒れのない敦の綺麗な唇が、柔らかく月子に沿って形を変えていく。
何をしても絵になるふたりだと、麻美は内心ため息をついた。