【SR】hide and seek
ここは、吉祥寺駅のそばにあるダイニングバー。

和を中心にメニューを置かれたこの店は、隆之の古くからの友人がオーナーをしていて、落ち着いた雰囲気の洒落た店だった。


仄かに落とされた、照明の中。

そこで3人は、隆之と待ち合わせをしていた。


「悪い、待たせたな。」

黒のロングコートを片手にした隆之が、暗く沈んだ3人の顔を見つけて手をあげた。

席に付きウーロン茶しか乗ってないテーブルを見て、挿してあったメニューを手に取りいくつか料理を見繕いながら、押し黙ったままの麻美に声をかける。

「どうした?」

麻美は躊躇いながら、目の前に座るふたりを見つめ隆之に今日あった出来事を話し出した。


「この子、昨日話した月子の彼氏、敦君。」

チラリと目線を投げた隆之に身を堅くし、敦は小さく頭を下げた。

「昼間、ふたりで敦くんを待っていた時にね、急に上から植木鉢が落ちてきたの…
もう少し気付くのが遅かったら、月子に当たってたところだったんだから。」

麻美の言葉に、月子は長い睫を伏せる。


「……偶然とか?」

その隆之の言葉をピシャリと否定するように、麻美は強く続けた。


「ううん、偶然なんかじゃない!
さっきもここに来る途中、駅のホームで突き落とされそうになったんだよ!」


混雑した、駅のホーム。

何百何千という数の人間が、家に向かうための電車を待っている。


その人の波の間から伸びる、月子を狙う何者かの手。

危うく、入ってきた電車に引かれそうになったのだ。


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