【SR】hide and seek
だんだんと冷えていく、敦の視線。


それは、人混みに紛れ見た田畑への感情と言うよりも、

今、目の前を月子と並んで歩いている隆之に対する嫉妬心なのではないかと麻美は受け取った。

それ程、ふたりの仲は密に思える。


「明日になったら月子の親も帰ってくるし、それまで月子の事よろしく頼むな。」

そう言い残し、家へと帰っていった敦。

いつまでもその背中を見つめる月子を引っ張り、先程隆之と3人でマンションへと帰宅したのだった。


温もった体から香る、ローズの仄かな匂い。

パジャマに腕を通しながら、麻美は今日聞いたふたりの話しを思い浮かべる。


どうして、田畑は陽子を殺してしまったのか。

必要以上に追いかけた、という理由も引っかかる。

ーーイタズラ目的?

すぐ後ろで陽子を突き落とすところを見ていた月子を、そのまま置いて逃げたのもおかしい。

逃げるのなら、口封じしていくものでは。


10年拘置され、今になって証拠不十分で仮釈放された、田畑 智弘。

傍で見ていた証言者がいるのに?


目の前で姉を殺されたショックで、過去の記憶が曖昧になっている月子の発言が更に麻美を混乱させていた。

手にした10年前の情報があまりにも少なすぎて、月子から聞いた話しだけでは、そのバラバラに割れた記憶のパズルが組たたないのだった。


麻美は濡れた髪を柔らかなタオルで拭きながら、鏡の中に映る自分を見つめていた。

そこに映っているのは、まったく同じもうひとつの麻美の顔。

瞳も、鼻も、そして口も……

鏡を通して見る、双子のような姿。



陽子と、月子ーーー




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