【SR】hide and seek
「あのね、
この後、あっくんと一緒にあの小学校に行ってみようと思うんだ。」

月子はそう言って、静かにフォークを置いた。

そんな真剣な月子の表情を見つめ、麻美も静かに頷いた。



「わたし、
あの時の記憶がいまいちはっきりしないの。」


俯く視線は、何を見つめているのだろうか。

とらわれた過去の記憶に、麻美は月子を思いやった。

「仕方ないよ。
目の前でお姉さんが亡くなったんだから。」

ウン、と月子は小さく頷く。


「でも、わたし真実が知りたいの。」

「真実?」


「ようちゃんが死んでしまった本当の理由を。
どういう目的で、なぜ殺されてしまったのか……

今でも田畑がわたしを狙っているのなら、その理由が必ずあるはず。
バラバラになった過去の記憶を、取り戻したいんだ。
たとえそれが、受け入れがたい真実だとしても……」


強く宿る月子の視線に、何故だか麻美は隆之を重ねていた。

深いその色は、何かしらの過去を清算しようとする強い気持ちの表れ。


そんな月子に、麻美はゆっくりと続けた。



「ツラくない?」

少し間を置いた月子は、小さく頭を横に振った。

「あっくんが、傍にいてくれるから……」


生まれてから、離れることなく陽子と過ごしてきた月子。

何者にも代え難い、その月子の半身がいた居場所に、今は敦がいる。

繋がれた敦との絆。

月子の前から去った陽子に代わりに、その10年間を埋めていくものだったのだろう。




「わたしも、ついて行ってもいい?」


少し躊躇いながらそう聞いた麻美に、月子は優しく微笑む。

「…うん。」



月子の黒髪に降りそそぐ、柔らかな朝の光。

麻美は瞳を細め、その儚げな月子の姿を焼き付けた。











< 26 / 55 >

この作品をシェア

pagetop