【SR】hide and seek
「愛せれると思ったんだ……
だけど、やっぱり陽子は陽子だ。
俺が愛した、月子じゃない。

10年前の真相を知りたがるお前、そしてそれをすべて思い出してしまったのなら、もう、お前には興味はない。」


寒さで冷えた敦の大きな手のひらが、陽子の細い首に添えられる。

声を上げようとする陽子。

だが、怖くて何も叫ぶことができない。

抵抗しても、なんだかすべてが虚しく感じられた。



「あっ…く…ん、
やめ…て」

ゆっくりと楽しむように、込められていく力。

どう陽子が身を捩っても、その手からは逃れられない。


「この前、拘置所から出てきた田畑が言ってたよ。
『悪かった』って……
何に謝ってんのか、わかんなかったけどね。

10年ぶりに見た田畑は、やけに小さかったなぁ…
この手で殺すのも、たやすかったぐらいなんだからな。」


「ころ…し…た?」

「あぁ、
1週間ほど前に、隣の理科室で田畑を殺した。
今頃、どっか冷たい川の底で、魚にでも食われてるんじゃないか?」


どこから狂ってしまったのだろう。

アル中の父親に、体を壊してそばにいてくれる事がなかった弱い母親。

飢えてしまった愛情から月子に固執し、その月子までも自らの手で殺してしまった。

そして、田畑までも。


「ふたり殺すのも3人殺すのも、どうせ一緒だ。」


苦しさに、もがく陽子の頼りない腕。

汗ばんだ頬に、長い黒髪が張り付く。



「実は俺さ、
あの日、忘れ物を取りに行ったんじゃなかったんだ…

教室でひとり、何してたか聞きたい?」



ぼやける意識の中、陽子は敦が何を言っているのか、もうよくわからなくなっていた。

ただ、
陽子に向かって微笑む、その歪んだ顔が見えるだけ。


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