【SR】hide and seek
「麻美、大丈夫か?」
陽もすっかり落ちてしまった、そんな街並み。
麻美は隆之と肩を並べ、マンションへと足を向けていた。
麻美の頭に巻かれた、白い包帯。
それを静かに見やり、隆之は気遣う。
あの後、田畑の殺害現場を追っていた警察がやって来て、そのまま敦と陽子は連れて行かれてしまった。
敦に怪我を負わされた麻美も、手当てを受けながら事情をさんざん聞かれ、解放された時にはこんな時間になっていたのだった。
ボーっとする麻美は、心ここにあらずな感じ。
行きかう人の波をよけきれず、思わず肩がぶつかる。
大事そうに包み紙を両手に抱いた中学生くらいの女の子と目があい、
小さく会釈を交わした後、またふたりは人波を歩き始めた。
「皮肉だよね…」
ポツリと、麻美はそう言った。
「あのふたり、これからどうなるんだろう。」
月子が亡くなってからの10年間、月子として過ごしてきた陽子。
真実を知り、これからの道をどう歩んで行くのだろうか。
そして、すれ違いで実の父親に手をかけてしまった、敦の未来も……
固執した愛情は歪んで形を変えたまま、敦というひとりの人間をつくってしまった。
ただ、
その優しい温もりが、欲しかっただけだったのにーー