さまよう
声をかけたはいいが何を言えばいいのか困った翼は頭を掻いたり手の平を上着で拭いたりと落ち着かない。それは翔も変わらなかった。
「あの、どうかしましたか?」
数か月前に出会った時と同じだった。胸に手を当てた彼女は、あの時と同じように声をかけてきた。
まっすぐに二人を見つめる彼女に正直に伝えようと思った。
「あなたに相談したいことがあります。話をしたくてずっと探していました。IDを教えてもらえませんか?連絡したいです」
翔の言葉に初めて戸惑いの表情を見せた彼女は、ちょっと困ります…と呟く。
当たり前の反応だ。まだ二回しか会っていないしまともに会話もしたことがない。ましてやニュースになる程の有名な特殊能力者だ。どんな存在なのかわからない相手に連絡先を教えるなんて自殺行為に近い。
しかし二人は今、胸が締め付けられるほど彼女に聞きたいことが沢山ある。自分たちを奇異な目で見てこない彼女だから聞きたいのだ。
「キミは僕たちを見て怖がらなかったんだ、ほかの人と違ったんだ」
翼に続けて翔が言葉を繋ぐ。
「俺たちはなぜそんな目で見られるんだろうな。今まで好きに生きてきたけど、前回あなたと会ってから解らなくなってしまったんだ」
ポケットに手を入れて床を見つめる翔。背中が少しだけざわつく沈黙の中彼女が小さく笑う。
「毎回返事をする保証は無いですよ」
カバンからスマートフォンを取り出した彼女はID登録画面を表示してくれた。