さまよう
「亮から電話だ」
「え?亮くん?」
着信画面に表示された名前は双子の唯一の親友である牧亮一だった。
「もしもし?」
「亮?どうしたんだよ、久しぶりだな」
翔は返事をしながらソファに座り直した。翼は翔と体が離れないようにいそいそと起き上がり、翔とぴったり重なるように座ってスマートフォンがある場所に耳を合わせた。
「亮くん?何年振り?」
「三年…四年ぶりくらいか?二人が高校卒業したあたりから連絡とってないからなぁ」
「そっかぁ、確かに卒業してからほとんど連絡してなかったね」
本当だなと翔が軽く笑った後、亮一は改まった感じで話し出した。
「二人とも、今日が誕生日だろ?おめでとう」
双子は戸惑い少し驚いた感じでありがとうと答えた。二人はあまり誕生日を祝われた記憶がない。
もちろん両親は毎年祝ってくれている。今日だって夕食は少し豪華で二人の好物が食卓に上がる予定だ。
第三者から見ると二人は常に入れ替わる。片方が消えて片方が現れる。消えて現れて消える。
その光景が奇妙すぎて近寄る人は少ないし、ましてや誕生日を祝ってくれる人なんて皆無だ。
他人に誕生日を祝われる経験をしていない二人はいつも戸惑っていた。その感情に気付いた亮一も自然とその話題を口にしなくなった。