さまよう
「その十数秒の間に危険を察知した人たちが周りの人たちに逃げろ!走れ!と伝えたり、意味が解らず立ち尽くしている人の腕を引いて移動させていて。
怪力の男性が運転手を下ろした直後に、時を止めていた男性が『もう無理だ!』と周りに伝えたみたい。
その時にはもうトラックの近くには人払いが済んでいたらしいわ。
再び時間が動き出したトラックは勢いよく飛び出して、標識、電柱、コンクリートの壁、いくつもの障害物にぶつかり衝撃を吸収されながら最終的に動かなくなった。
運転手を含めて十人近い人が重軽傷を負ったけれど、その全員が今も生きている。
きっかけを作ってしまったのは彼女だったかもしれないけれど、止めなければ麻未ちゃんが最悪なことになっていたかもしれないし、その近くにいた人たちも負傷していたかもしれない。
彼女は悪いことは何もしていないのよ」
こんなにも偶然が重なり死者が出なかったのは恐らく病院の近くで起こった事故だったからだろうと思われる。
コントロールが必要と思われる特殊能力を持った能力者は病院の近くに住居を構えていることが多かったし、通院のために立ち寄る人が多かったこともある。
また、大人が関わっていたこともあり特殊な能力についての知識を持っている人も多かったことだろう。
コーヒーを飲みながらなおも説明は続いていった。
麻未はその後病院でのケアを続けて小学校にも再び通うようになったが『自分のせいであの事故が大変なことになった』という気持ちが消えず、クラスメイトの中に自分を責めている人がいるはずだという思い込みも発生してしまった。
ほとんどの人があの事故に特殊な能力が関わっていることを知らない。麻未が関係していたなんて知ることもなかったので責める人など居なかったのだ。
国が麻未のケアを優先してしっかりと情報が漏れないようにしていたし、今もそれは続いている。