夜を照らす月影のように#1
「……っ!」

「……凄いでしょ?この魔法を使える人は、知る限り俺以外にはいない……それだけ、高度な魔法なんだ」

「……凄い、ですね……そうです。僕は、異世界に転生してきたみたいで……」

僕は、簡単に真実を話す。

「魔法が空想になっている世界、か……今まで異世界から来た人に会ってきたけど、ノワールくんのような世界から来た人は初めてだ……そうだ。俺が異世界から来た人に会っている、という話は内緒な。リオンにも、俺の妻にも」

「分かりました……僕のいた世界の他にも、色んな世界があるんですね」

僕がそう言うと、リオンさんのお父さんは「みたいだな」と頷いた。

「……それじゃあ、ノワールくんがなぜ森にいたのかという話をするね。ノワールくんは、今世での親に捨てられた。その出来事がきっかけで、記憶を失ったんだろう……今のノワールくんは、暮らす場所がない……どうだ?俺の家に、養子として来ないか?」

リオンさんのお父さんの言葉に、僕は頷いた。



「……」

僕がリオンの家に養子として来て、数年が経った。僕は18歳に、リオンは21歳になった。リオンの両親は、仕事の都合で町で暮らすことになったから、今は僕とリオンの2人で暮らしている。

僕は、紙から顔を上げるとぐっと体を伸ばす。

「……まさか、この世界でも小説を書くことになるとは……」

僕は、そう呟いて原稿用紙を眺めた。
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