私の婚約者には好きな人がいる
「そうだなあ。なにか簡単な仕事でもしてもらおうか。惟月(いつき)の秘書はどうかな」

『秘書』という響きだけで舞い上がってしまった。
そんな素敵なポジションを私が任されてもいいのかしら?
秘書といえば、片腕のようなもの。
いつも一緒にして、お仕事の手伝いをするのよね?
思わず、胸の前で手を組んでしまった。

「社長、それがいいでしょう」

「専務も喜びます」

「うんうん。それじゃあ、秘書室に行こうか」

秘書室は最上階フロアにあった。
その最上階フロアの大きなガラスの窓からは高辻(たかつじ)グループの本社が見える。
高辻の本社ビルは立派でまるで王様みたいに堂々としていた。
あそこにお父様とお兄様が働いていると思うと不思議な気持ちだった。

「惟月」

専務室をノックすると、中でガタンと椅子を引く音がしてドアが開いた。
中から出てきたのは惟月さんで、その人形のような顔にしばし魅入ってしまった。
女性よりも綺麗な顔立ちをしている。
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