私の婚約者には好きな人がいる
汗と一緒に涙がこぼれ落ちてきて、それをそっと指でぬぐった。
泣かないで―――惟月さん。
私がずっとそばにいるって約束するから。

「情けないよな」

「いいえ……」

お互いの指を絡めて、手を重ねた。
体温が一つになって溶ける。
離れないようにしたいと惟月さんはつぶやき、私はうなずいた。
どうか、彼の傷が癒されますように―――もうろうとする意識の中でそう願わずにはいられなかった。
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