私の婚約者には好きな人がいる
「余計なことしないで」

睨み付けられたけれど、負けずに言った。

「中井さん。頼まれた仕事は最後まできちんと最後までしなければ、一緒に働いている方達が困りますよ」

「今からするつもりだったのよ。余計なことしないで!」

ドンッと乱暴に体を突き飛ばされ、足がもつれて転倒してしまった。

「わざとらしいわね」

私を見る中井さんの目が大きく見開かれた。
首筋に赤い痕が残っていることを思いだし、慌てて手で隠した。
恥ずかしくて、顔をあげれずにいると中井さんの手が胸ぐらにかかり、体にのしかかられ、逃げようにも逃げれず、もがくことしかできない。

「や、めてっ」

「惟月を返しなさいよ!」

「うっ、くっ」

どこにこんな強い力があるのかと、思うほどに胸ぐらをつかみ、揺さぶられた。
目が憎悪に染まり、ぐっと襟首を締められると息が苦しくなった。

「な、なかいさっ……」

止めようとしたのに中井さんの耳には届いていない。
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