私の婚約者には好きな人がいる
けれど、惟月(いつき)さんはとても不機嫌そうだった。
おじ様や他の人達は長身の惟月さんに頭上から見下ろされ、全員が少し体を引いて距離をとった。
それくらい迫力があって、挨拶の言葉を用意していた私でさえ、なにも言えずに心の中で『どうしよう……気を悪くされてしまった』と思い、おろおろとおじ様と惟月さんの顔を見比べた。

「なんです?」

「今日から咲妃(さき)ちゃんが来ると伝えただろう?お前の秘書にでもと思ってな」

「申し訳ありませんが、お嬢様の遊びに付き合っている暇はありません」

「惟月!お前はなんてことを言うんだ!」

その口調から自分が歓迎されてないことをすぐに悟った。
―――当然だわ。
ここは会社でなにもできない私がくるところじゃない。

「おじ様。惟月さんの言う通りです。お忙しいのにごめんなさい」

「わかっているなら、会社にこないでほしいね」

「惟月!」

清永のおじ様が何か言う前にドアが閉まり、鍵がかけられた。
かなり、印象を悪くしてしまったみたいだった。

「そうですよね。なにもできないのに来てしまって」

恥ずかしいのと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
< 11 / 253 >

この作品をシェア

pagetop