私の婚約者には好きな人がいる
「咲妃に危害を加えることは許さない。敵になるなら容赦はしない」

真っ青な顔で中井さんはこちらを見ていた。

「惟月さん!やめてください!」

ギュッとシャツを握りしめると、惟月さんは肩の力を抜き、息を吐いた。

「あなたに庇われたくないわ!なんなの?哀れみ?」

「中井さん。違うんです。私と中井さんの決定的な違いはたった一つだけなんです」

「なによ」

「ただ惟月さんはそばにいてほしかっただけなんです。だから、私が中井さんだったかもしれないと思ったら、私っ……」

「なにそれ」

中井さんは泣き笑いのような顔をした。
人が集まりだし、ざわざわとし始め、中井さんに視線が集中していた。

「惟月さん。私は平気ですから。もう戻りましょう?」

私の声に惟月さんは冷静になり、ようやく状況が見え始めたのか、周囲を見渡すと頷いた。

「そうだな。………今日は帰ったほうがいい」
< 111 / 253 >

この作品をシェア

pagetop