私の婚約者には好きな人がいる
マンションに帰ると静代さんがいて、私の姿を見るなり、怒りを(あら)わにした。

「高辻のお嬢様になんてことを!」

「静代さん、落ち着いて」

「いいえ!落ち着いてなんかいられませんよ!惟月(いつき)様はなにをしておいでですか!こんな危険な目にあわせるなんて、とんでもない!」

「惟月さんは悪くないわ」

赤く擦りむいた膝や手のひらを静代さんは消毒してくれた。

「旦那様にご報告しなくては!」

「やめて。たいしたことないのに大騒ぎしないで。お父様は私の結婚に賛成してくださって、もう高辻ではないの。清永(きよなが)なのよ?私と惟月さんで解決するようにとおっしゃるに違いないわ」

不満そうに静代さんは私を見た。

「それでも、お嬢様はまだ高辻のお嬢様ですよ。旦那様はそうおっしゃるかもしれませんが、恭士(きょうじ)坊ちゃまは違います。きっと連れ帰るようおっしゃいますよ」
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