私の婚約者には好きな人がいる
冷たい雨が頬や手の甲にあたる。
さっきまで降っていなかったのに今、降らなくても。
灰色の空を恨めしく思った。
着物のせいで、急ぐこともできず、投げやりな気持ちで歩いていると、突然、頭上に影が出来て、見上げると傘があった。
驚いたけれど、傘をさしてくれた人に頭をさげた。

「ありがとうございます」

「いいえ」

お見合い相手がこんな優しい方だといいのに―――
そんなことを思いながら、足元を気を付けながら、歩いた。
料亭の入り口に行くと、料亭の女将さんが待っていた。

「まあ。お揃いで。お足の悪いところ、よくいらしてくださいましたね。高辻様、清永様」

清永様?その名前は今日のお見合い相手の名前だった。
傘を静かにとじていた男性に視線をやると、まるで西洋のお人形のように綺麗な方で驚いた。
陶器のような白い肌に長いまつげ、茶色のサラサラの髪と瞳。
< 117 / 253 >

この作品をシェア

pagetop