私の婚約者には好きな人がいる
惟月(いつき)の昔の女に馬乗りにされ、胸倉をつかまれたそうだな。他の社員も見ていたそうじゃないか。なにかちがうところはあるか?」
「でも、それは……」

「妹がそんな扱いを受けたと聞いて、黙っていられるか?」

「私は平気です」

「馬鹿を言うな!」

恭士お兄様の怒鳴り声が響き、静代さんですら身を震わせた。
けれど、私は惟月さんの元に戻りたい一心で、ひるむことなく、恭士お兄様に食い下がった。

「お父様はなんておっしゃっているの?こんなことをお父様が許すはずがないわ」

「咲妃の身の安全のため、しばらくはその女から離せと言っていた。親なら、当然だろう」

「しばらくって、どれくらいここにいればいいの?」

「さあな」

冷たく言い放ち、恭士お兄様は立ち上がった。

「俺は仕事があるから戻る。後は頼んだぞ」

「はい。恭士坊ちゃま」

「恭士お兄様!私は惟月さんのそばにいると約束したんです。だからっ……」
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