私の婚約者には好きな人がいる
冷ややかな目で恭士お兄様は私を見た。

「だから、危険な目にあっても構わないと?おかしいだろう、それは」

そう言って、大きな音を立てて扉を閉めた。
がちゃりと外から鍵がかかり、中からの鍵は静代さんが持っていたけれど、静代さんは渡してくれそうにはなかった。

「お嬢様、落ち着くまではこちらにいるとよろしいですよ」

静代さんは完全にお父様とお兄様の味方で、私の気持ちも話も聞いてはくれなかった―――

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「咲妃お嬢様、食事をなさってください。昨日から水も飲まずにいるんですよ」

「ほしくないわ」

ずっと外を眺めていた。
部屋は二階でトイレもお風呂もあり、広さだけはあったけれど、外へ連絡をとれるようなものは一切なく、人の気配はほとんどない。
食事の材料や買い出しは静代さん以外のお手伝いさんがしているらしく、静代さんがこの別荘から出て行くことがないようだった。
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