私の婚約者には好きな人がいる
足を洗っているのを見て、すばやくエプロンから鍵を探しだし、鍵を使い、部屋から出ると部屋の鍵をかけて一階に降りた。
玄関に行く前にリビングをのぞくと、写真が飾ってあった。
恭士(きょうじ)お兄様に良く似た男の人と私に似ている女の人。
お父様はわかったけれど、隣にいるのはお母様ではなかった。
抱き抱えているのは男の赤ちゃん―――恭士お兄様なの?
動けずにいると、二階のドアを叩く音がして我に返った。
玄関に私の靴はなく、はけそうなものはサンダルしかなかったけれど、かまわずにそれをはいて外に出た。

「私が知らない高辻(たかつじ)の別荘があったなんて」

もしかしたら、知っている人は限られているかもしれない。
私が閉じ込められていた場所は山荘らしく、曲がりくねった道を走った。
高辻に連絡がいけば、連れ戻されてしまう。
どこか、民家を探して電話を借りるしかないけれど、山道が延々と続いていた。
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