私の婚約者には好きな人がいる
日が暮れ始めてきて、周囲が薄暗く、心細く感じた。

「っ!」

痛みに足を止めた。
サンダルのせいで、擦り傷ができている。
血がにじみだし、しゃがみこんだ。
水も飲まずにいたせいか、頭がくらくらする。
めまいがおさまるまで待ってから立ち上がり、裸足になって歩いていると車の音がした。
隠れる場所はない。

「どうしよう」

ライトが照らされるのと、同時に車がとまり、車から誰かが降りてくるのが見えた。

咲妃(さき)!?」

「惟月さん!」

惟月さんが走ってくると、髪に顔をうずめ、苦しいくらいの力で抱き締められた。

「探した」

「ごめんなさい。心配をかけてしまって」

「逃げてきたのか」

惟月さんは私の足を見て、険しい顔をした。

「ええ」

抱き抱えて車の助手席に乗せてくれた。

「惟月さん。山荘に戻ってほしいの。静代さんを閉じこめてしまって」

「やるな」

惟月さんは笑った。
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