私の婚約者には好きな人がいる
「それから、俺に咲妃さんを与えて頂いたことを感謝します、と伝えてほしい。たとえ、思惑通りだったとしてもかまわない」

静代さんは深々と頭を下げた。
まるで、惟月さんにお礼をいうようなお辞儀だった。

「やっぱり高辻の家は一筋縄じゃない敵い怖い家だな」

静代さんがいなくなると、惟月さんは深く息を吐いた。

「それじゃあ、帰ろうか」

「はい」

やっと帰れることに安堵(あんど)した。
この時、私が帰りたいと思っている場所は高辻ではなかったことに気付いた。
私の家は惟月さんと暮らす、二人の部屋だった。

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