私の婚約者には好きな人がいる
それで、あんなことになったわけだけど。

「静代さんは家政婦を辞めたんだな」

「はい。でも、他の場所で家政婦として働いているみたいです」

「そうなのか?」

「この間、車に乗っていたら、静代さんらしき人がスーパーから出てきて、どこかに向かってましたから」

「なるほど。新しい働き口が見つかったのか」

「そうみたいです」

惟月さんの手前、そう答えたけれど、私は薄々気づいていた。
静代さんが誰をお世話しているのか。
お父様にはお母様とは別に愛している方がいる―――きっとそれはあの山荘にすべての秘密が隠されていた。
私と恭士お兄様の母は別にして、お母様の子として籍に入れられ、育てられたのではないだろうか。
今になって思えば、家族で旅行もでかけた記憶もない。
どこか行くとしても恭士お兄様と二人だった。
お兄様は私が高辻の家に連れてこられた日をきっと覚えているに違いない。
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