私の婚約者には好きな人がいる
だから、お兄様は惟月さんとの結婚を頑なに反対していたのだろう。
お父様と同じように惟月さんには他に好きな女性がいると思って、私の幸せを考えたらどうやっても結婚させるわけにはいかないと。
お兄様の心の傷は私よりもきっと深い。

「咲妃。どうかしたか」

「いいえ」

惟月さんの手を握った。

「惟月さん、私のことが好きですか?」

「なんだ!?いきなり!」

驚き、惟月さんは足を止めて私の顔を覗き込んだ。
なにも聞かず、惟月さんは微笑んだ。
そして、耳元にそっと唇をよせ、ささやいた。

「好きだ」

「私もです」

惟月さんとお父様は違う。
そして、私も。
何度閉じ込められても、必ず私は惟月さんの元に帰るから。
惟月さんは笑いながら、髪をくしゃりとなでると、手を繋ぎ直し、私達は再び歩き出した―――


『私の婚約者には好きな人がいる』

【了】



※この後は番外編(惟月)と番外編(恭士の話)になります。
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