私の婚約者には好きな人がいる
ベテラン中のベテランで後進の優秀な家政婦達の指導をしてきた方だ。
料理や掃除はもちろんのこと、マナーまで教えていただいた大先輩。

「そうなのよ。静代さんのおかげで宮竹の契約先は高辻様のお知り合いの方々とも繋がることができたの。高辻様あっての宮竹家政婦紹介所だと言っても過言ではないわ」

「そうですよね」

「どう?引き受けてくれる?」

少し考えたけれど、恩義ある所長の頼みだし、引き受けるべきだとは思っていた。
それに高辻家は長年、宮竹紹介所が契約先として付き合っている所でもあり、おかしな派遣先ではないことは確かだった。
でも、まだ五年程度しか働いていない私がいいのかな……。
そんな立派なお屋敷に行っても。

「桑江さんなら絶対に大丈夫!」

「わかりました。お引き受けします」

私は所長から言われ、そこまで言うのならばと深く考えずに高辻家への派遣を決めたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


高辻財閥……。
すごいところと契約を結んでしまったなというのが素直な感想。
それも住み込み契約。
高辻家の契約内容を確認しながら、宮竹紹介所の隣にある社宅であるアパートに戻った。
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