私の婚約者には好きな人がいる
「あらあ、恭士さんったら。また女の人を泣かせて。どなたなら、満足なのかしら?」

おっとりとした口調の女性が私の背後から現れた。
春らしく、ベージュのワンピースにパールのイヤリングとネックレスをつけ、爪はピンク色で指には大きなダイヤモンドの指輪をつけている。

「母さん、覗いていたのか」

母さん!?
と、いうことは高辻の奥様だろう。
高辻の奥様は若々しく、五十代には見えない。
いいとこ四十代前半でしょ!?と思っていると、少女のようにその人は笑った。

「やあねえ。そんな下品な真似をするわけないでしょう?」

「それは失礼」

二人とも私のことが目に入ってないようだった。

「あ、あのー。宮竹家政婦紹介所から派遣された桑江(くわえ)夏乃子(かのこ)です」

「あらまあ。そういえば、静代さんの代わりに来るとおっしゃっていたわね」

首を傾げて、柔らかく微笑みを浮かべていた。
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