私の婚約者には好きな人がいる
「様はやめろ。さんでいい」

「はい。では、恭士さん」

雇い主の要望にはある程度、柔軟に対応している。

「名前は?」

さっき言ったのに……。
本当に私の事なんて、空気程度にしか思ってない気がした。
恨めしく思いながら、もう一度言った。

「桑江夏乃子ですっ!」

「夏乃子か」

なんで呼び捨て!?

「いくつだ?」

「えっ!?23歳ですが」

「てっきり家出娘かと思った」

「家出娘!?」

「23歳にしてはガキ臭いな」

「ガキ臭い!?」

「高校生がなにしにきたのかと思ったぞ」

「こっ……高校生!?」

だから、呼び捨てなわけ?
なんなのよっ!
このと失礼な奴は!
ぶるぶると拳を震わせた。

「おっと。構っている場合じゃないな。仕事に遅れる」

言いたいことだけ言って、去っていった。
私にとって、恭士さんとの出会いの印象は最悪だった。
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