私の婚約者には好きな人がいる
穏やかな顔で座る奥様と割れた皿を私は交互に見た。
皿を背中にぶつけられた豊子さんはなにが起きたか、わからず、呆然と立ち尽くしたまま、割れた皿を見ていた。

「あらやだ。手の横に置かないで?ぶつかってしまったわ」

「も、申し訳ありません」

深々と豊子さんが頭を下げた。
動揺して動けない豊子さんの代わりに祥枝(さちえ)さんが青い顔で皿とこぼれたサラダを片付けると、奥に引っ込んでいった。

「サラダをちょうだい」

奥様が豊子さんに言った。
予備のサラダがないことを知っているはずだ。
しかも、自分で落としましたよね!?
恭士さんを見ると、険しい顔をしていた。

「わかりました。私がお持ちいたします」

豊子さんに戻る様に(うなが)し、キッチンに入ると、恭士さんのために作ってあったサラダを出した。

「それを出したら、恭士さんの分がなくなるでしょう」

「そうよ。どうするの」
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