私の婚約者には好きな人がいる
「夏乃子ちゃんのロールキャベツは絶品ね」

「所長も料理の腕に関しては褒めていたわよ」

「本当ですか!?」

二人は頷いた。
お世辞でも嬉しい。

「奥様って、いつもお出かけされているんですか?」

「そうよ。お茶やお花、日舞に琴とピアノと英会話だったかしら?」

「あとは奥様方のお茶会もあるからねぇ」

「そうそう。歌舞伎を見に行ったり、観劇なさったりね」

「忙しい方なんですね」

「奥様は家にいてもお一人だから、外の方が楽しいのでしょうね」

「旦那様も恭士さんの妹である咲妃(さき)お嬢様がご結婚されてからは滅多(めった)に本宅にはお戻りじゃないのよ。やっぱり娘は可愛いかったのね」

高辻の本宅にはほとんど誰もいない
広い家はなんだか、寒々しく感じた。

「なんだか、複雑ですね」

「仕方ないわよ」

「私達のような下々(しもじも)にはわからないわよ」

どこか、諦めた様に豊子さんも祥枝さんも言って、それ以上の詳しい話は誰も何も言わなかった。
私もしつこく聞かないように黙って、スプーンで崩したロールキャベツを口に運んだのだった。

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