私の婚約者には好きな人がいる
「ない、と思いますけど」

「ならいい」

何を言いたかったのだろう。

「若いのに料理はどこで習ったんだ?」

「お客様の好みやご要望にはなるべく応えられるように会社の研修や料理の本で勉強はしています」

「偉いな」

「仕事ですから」

恭士さんの褒め言葉にわずかに動揺したけれど、それを隠した。
この人が誰かを褒めたりするんだ……と思った。

「どうして家政婦の仕事を選んだんだ?」

「面接ですか?」

「ただの質問だ」

「家が貧乏だったからですよ」

まじまじと私の顔を恭士さんが見て言った。

「そうか。作る料理からは貧乏なことはわからなかったな」

整った顔立ちのせいか、冷たく見えるけれど、それは外見だけで中身はそうでもないのかもしれない。
馬鹿にされるかと思っていた。

「それはそうですよ。大根の皮のきんぴらとか、大根の葉っぱのふりかけとか、出すわけにはいきませんよ」

「口にしたことがない」
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