私の婚約者には好きな人がいる
「夏乃子。たまには違う髪型したらどうだ」

「この髪型が慣れているんですっ!」

軽く三つ編みを指でつまみ、恭士さんはひっぱった。

「ちょっとやめてください」

痛くはないけど、大の大人がやることじゃない。
小学生かっ!
恭士さんの指が黒いゴムをとり、髪の毛が肩に落ちた。

「もう!」

両側のゴムをとられて、戻すのを諦めていると恭士さんがなにも言わずに私を見ていた。
な、なに!?
出会った時も思ったけど、目に力があるというか、迫力があるというか。
がちゃりとダイニングのドアが開き、恭士さんが弾かれたように崩した姿勢を元に戻した。

「あら、帰っていたの?恭士さん」

奥様が入り口に立っていた。
奥様は黒のルームウェアに黒のロング丈のナイトガウンを着ていて、少しお酒の匂いがした。

「母さんこそ、もう休んだのかと……」

「騒がしかったから、目が覚めてしまったの」

「申し訳ございません」
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