私の婚約者には好きな人がいる
お喋りしすぎてしまったと、自分でも恥ずかしく思い、深々と頭を下げた。

「俺から話かけたせいだ。気にしなくていい」

「珍しいこともあるわね」

目を細めて、奥様を見る恭士さんはどこか、好戦的で攻撃的に見えた。

「変な勘繰りはやめてほしいね。くだらない」

「…あら、ごめんなさい。怒られる前にお部屋に戻るわ」

恭士さんの低い声に奥様はわずかに慌て、その場を離れて行った。
そこから先は何も話さず、恭士さんもダイニングからいなくなってしまった。
残された私は後片付けをしながら、考えていた。
まるで、二人は親子というより敵同士みたいで―――
でも、恭士さんがいまだ反抗期というのもあり得るかもしれない。
けっこう、子供っぽいことを平気でやってくるから。
肩に落ちた髪を見て、やれやれと、ため息を吐いたのだった。

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