私の婚約者には好きな人がいる
中井さん。
頭の中でその名前を反芻した。
そこまで聞けば、もう十分だったのに噂話はまだ続き、二人は海外支店から惟月(いつき)さんが帰ってきてからの付き合いだったことがわかった。
お相手の中井さんが海外支店に勤務を希望されていて、その相談に乗る内にそんな関係になったそうだ。
机に戻り、ぼんやり座っていると、明るくハキハキした女性が何人かの若い社員達と入ってきた。

「美味しいお店だったわね。器がもう少しおしゃれなら、良かったわ。輸入食品だけじゃなく、器も提案していきましょう!」

中井さんは細身のパンツスーツを着こなし、スタイルもよく、大人っぽくて、綺麗な人だった。
仕事もできるのか、周りにはたくさん社員の人達が取り囲み、イキイキとした表情を浮かべている。
キャリアウーマンってあんな人のことを言うのかも知れない。
中井さんは一度も私を見なかった。
きっと私には興味すらない。
午後からも閑井さんと二人でこまごまとした仕事をして終わったけれど、午前のように楽しいわくわくした気持ちにはなれなかった。
どうしても中井さんの声が耳に入ってきてしまって―――
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