私の婚約者には好きな人がいる
鴨肉をローストし、色鮮やかなオレンジソースをかけたものや鮭とパイ生地がミルフィーユ状になっているもの、まるでクリームみたいに滑らかなマッシュポテト。
皿には綺麗なソースが描かれていた。

「テーブルマナーは一応出来るんだな」

「そうですね。マナーの研修も取り入れていますから」

宮竹家政婦紹介所は高辻の紹介でお金持ちのお客様が多いため、私達もある程度の知識と作法は学ばされる。
知らないと、テーブルのセッティングもできないし。

「すごくおいしいお店ですね。行きつけですか?」

「妹が好きな店だったから、気に入ると思った。年齢が近いからな」

「ご結婚されたっていう妹さんですよね」

「ろくでもない男とな」

シスコンかと思いながら、見ていると、恭士さんはどこか遠くを見るような目をし、ぽつりと呟いた。

「俺の家族は妹だけだからな」
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