私の婚約者には好きな人がいる
常温保存できるものを保管してあるパントリーで在庫の食品を確認していた所だった。
「今日、旦那様がお戻りになられるの。よろしくね」

「はい」

それだけ、言うと去っていった。
豊子(とよこ)さんは奥様をまるで哀れむような目で見ていた。
「久しぶりに旦那様がくるから、嬉しいのでしょうね」
ひと月以上いるのに私が高辻(たかつじ)の旦那様を見るのは初めてだった。
いくらなんでも、本宅に近寄らなさすぎじゃないかなぁ。
私の基準で考えちゃだめなんだろうけど。
さすがに嬉しそうな奥様を見ていると、可哀想になる。
って、余計なことを考えている場合じゃない。

「そんなことより、夕食のメニューを考えないと!」

旦那様のお帰りによって、にわかに私達は忙しくなり、慌ただしく動き始めたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「おかえりなさいませ」
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