私の婚約者には好きな人がいる
旦那様が戻ると、優しい方なのか、旦那様は一人一人に(ねぎら)いの言葉をかけていた。
ぱっと見ただけでわかる上等のスーツ、皺ひとつないシャツ、オーデコロンだろうか。
いい香りがする。

「ああ。君が宮竹(みやたけ)から新しくきた家政婦か。話には聞いているが、本当に若いな」

「よくやってくれていますよ」

今日はいつもより早く恭士さんも帰宅し、楽な服装に着替えていた。

「ははっ。恭士が誰かを褒めるなんて珍しいこともあるものだな」

高辻の旦那様は恭士さんと顔立ちがよく似ていて、迫力がある。

「おかえりなさい。あなた」

奥様が出てきても旦那様の顔はにこやかなままで、ただいまを言わなかった。
違和感を感じながら、キッチンに戻り、夕食をテーブルに運んだ。
黒の塗り箱に一口ずついろんなものを入れてみた。
タコの酢の物、豆の甘煮、煮しめ、卵焼きなど。
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