私の婚約者には好きな人がいる
「気に入る相手がいれば、そうしますが」

ふっ、と恭士さんは旦那様の言葉を鼻先で笑い飛ばした。

「本気で言っている」

旦那様の低い声に恭士さんの顔つきが変わった。

「気に入らなくても結婚はできる。言っている意味がわかるな?高辻に相応しい人間を妻にしなさい」

「父さん、随分と強引ですね」

「高辻に跡取りが必要だからな」

「愛がなくても子どもだけは作れと?」

「そうだ。愛がなくても高辻に相応しい人間と結婚しろ」

恭士さんは苦い表情を浮かべた。

「それじゃあ、私が何人か選んで恭士さんに紹介するわね」

奥様は嬉々として、旦那様と恭士さんに言った。
どちらからも異論はなく、恭士さんの険しい顔を見ているのが悪い気がして、そっとその場から離れた。
ご家族の話し合いで決まったのか、来週の土曜日に奥様はお嬢様達を招きますからね、とわざわざキッチンまできて私達に言ったのだった。

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